将棋から考えるダブルバトル講座 構築と定跡編

「将棋とポケモン対戦は似ている」という言葉を聞いたことが無いだろうか。そういった主張をした人を見たことがあるのだが、実際に根拠ありきで語っている人を見たことが無い。そういった経緯もあり約2か月間、毎日3局ずつネット将棋を指すようになり、実際にポケモン対戦と似ているところを見つけた。そして実際に将棋とポケモン対戦の共通点も言語化できるようになった。

 

 簡単にまとめると、「テンプレートの戦い方があること」「詰め筋の考え方」「選択肢の中から最善手を選ぶこと」がかなり似ていると感じた。今回は一つ目の「テンプレートの戦い方があること」の観点から、ダブルバトルにおける構築の選び方について論じようと思う。

 

 将棋において、戦法の最も大まかな括りに「居飛車」と「振り飛車」というものがある。最強の駒である飛車を初期位置のまま使うか、横に動かして使うか、という違いなのだが、他の駒との兼ね合いにより、飛車を振る振らないかの違いによって駒の組み方に大きな変化が生じる。そして効率的に駒組を進めるため、超序盤でこれを決定しなければならない。これがポケモン対戦における構築ジャンルによく似ている。

 

 また、将棋の駒は守備的であるから、1つの駒では攻めることは出来ない。そのため、攻める形を駒を使って盤上に築かなければならない。守り方についても同じで、取られては負けの玉を守り、守りの駒同士も互いに守り合う形を作る。この形はポケモン対戦における「ポケモン」である。

 

 また、将棋は平均して80手も指せるため変化も膨大である。たとえプロ棋士といえども全局面を覚えることは不可能であるため、誰もが自分の得意戦法を持っている。自分の戦法がある程度固定することによって似たような局面が多くなり、研究や勉強の成果がでやすいことが分かりやすいメリットである。

 

 前述の通り、ポケモン対戦において大まかな戦術のことを「構築ジャンル」と考えても理論はしっかりと当てはまる。自分の使う構築ジャンルを固定することによって出会う局面を減らすことができ、効率的に勝つ選択肢を考えることができる。

 

 例えばあからさまなトリル構築「クレセガチグマコータス」などを使うと、先発からトリル対策ポケモンが出て来ることが多くなる。トリル対策ポケモンも実用的なのは数が少ないため、実際に対面するポケモンはもっと少なくなる。

 

 しかし、構築ジャンルを絞るメリットは実際のところこれだけである。ポケモン対戦には環境の変化というものが存在する。使用できるポケモンは変化し、自分の構築ジャンルがいきなり大幅な弱体化を受けるリスクがある。

 

 ダブルバトルはシングルよりも顕著にその影響があり、今回はこの理由のためダブルバトルに絞ることとした。シングル勢が求めるポケモンを究極化すると、「火力が高い、固い、速い、優秀な変化技がある」超ハイスペックポケモンであり、相性補完の取れたハイスペック構築が理想形となるわけだ。しかしダブル勢は天候関係の特殊な特性や、トリックルームや追い風といった特定の技の有無をシングル勢より重視する。そのため構築ジャンルがダブルのほうが多種多様であり、それらを同じ環境、限られた期間によって極めきることは難しく、何も極められないというリスクを背負うことになる。しかし使用する構築を狭めすぎることもその構築の弱体化という将来的なリスクを背負うことになる。

 

 ダブル勢の更なる苦悩として、年に一度しかない公式大会の存在がある。結局どれだけ特定の構築を極めようと、その公式大会を目標にしている以上その環境で構築が戦えないことには意味をなさない。

 

 これらのことから、これからダブルバトルを始める初心者や、それ以上の実力のある方も自分の目標にあった構築を使用してみて欲しい。自分の目標とする大会はどのルールで行われるのか。勉強時間はどの要素にどのくらい配分したいのか。それによってリスクヘッジの方法も変わり、それを意識するだけで対戦に費やす時間も漠然と対戦を繰り返すよりもより計画的で意味のある時間になる。

 

 ちなみに構築ジャンルにも弱体化しやすい構築と、そうでない構築があり、それらには決定的な違いがある。それは致命的な弱点の有無である。例えば寿司構築。レギュレーションAでは猛威を振るっていたものの、急所と黒い霧という分かりやすい弱点があったため、世界大会のあったレギュレーションDでは大きく数を減らすこととなった。しかしトリル構築や、サイクル系、追い風系において具体的なポケモンは変わったものの、今でも健在である。これを考慮に入れると使用するべき構築が絞れてくると思うので是非参考にしていただきたい。

 

 この記事では定跡という考え方についても紹介したい。定跡というのは将棋における、特定の戦法を指すうえで覚える必要のある最善手群である。これを知らなければ始めて数手で大劣勢になることもありえるため、アマチュアでも必ず勉強するのだが、ポケモン対戦においてはそうでない人が多数派だ。

 

 勉強する分かりやすい方法が確立されていないのが要因の一つとして挙げられるが、根本を辿るとポケモン対戦の場合定跡を自分で作る必要があるからだと思う。それに関しては、自分の使用する構築において最善手を仮定し、実際に有利に対戦が進むか検証することによって正確な結論が出せるはずだ。それを言語化することによって、より効率的に構築の理解度を深めることが可能である。

 

 以上をもって今回の講座とさせていただく。ありがとうございました。